
誰かに置いていかれることに慣れ、傷つかないように“透明”でいようとしてきた心が、人の優しさに触れ、少しずつ輪郭を取り戻していく物語。
約束どおり待ち合わせ場所へ来てくれたこと。
泣いている理由を無理に聞かなかったこと。
ただ抱きしめてもらえたこと。
どれも、外から見ればほんの小さな出来事。
けれど、ずっと「いつか置いていかれる」と思いながら生きてきた人にとって、それは世界の見え方を変えてしまうほど大きな出来事なのだと思う。
自分の好きなものを好きだと言ってもいい。
そんな当たり前だったはずの感覚を、もう一度ひとつずつ取り戻していく。
恋の話なのに、読み終えたあとに残るのは「好き」よりもう少し深いところにある、人のぬくもり。







小学二年生で台所に立ち、弟の朝ごはんを作り、保育園へ送り、学校へ走る。
具のない味噌汁を両手鍋でもらいに行き、遠足には白いおにぎりを二つ持っていく。
どれも、子どもが背負うにはあまりにも大きな日常。
それでも当時の「私」は、自分が頑張っているとは思わない。
うまくできなければ、自分が悪い。弟が泣けば、自分のせい。
いつの間にか人生のあちこちに「ごめんなさい」が染み込んでいく。
それでも、大人になった語り手は、ただ悲しい記憶として語らない。
「ごめんなさい」を、少しずつ別の言葉へ変えていく。
あの頃、誰にも守られなかった小さな自分を、
今の自分がようやく抱きしめに行く、
静かで深い「救い」の物語。





黒い服の美容師さん。
特別な約束はない。
会えるのは月に一度。
それでも「また来月」があることが、日々を少し楽しみにしてくれる。
少しだけ自分を好きになれる。
そして、自分が渡したもので、
その人が少し笑ってくれる。
二人だけの時間が少しずつ積み重なっていく。
ハサミで切り落としているのは、髪だけではないのかもしれない。
自信のなさや、少し疲れた気持ちや、「どうせ私なんて」と思ってしまう心まで、ほんの少し軽くしてくれる。
何気ない日常の中にある、小さなときめきと前を向く時間を、軽やかにすくい上げた作品です。
ー ご紹介した書き手さん











